Arietta
Prologue
自宅を訪ねた私たちを、オークションの最中と同じ笑顔で出迎えてくれたフリッツは、グラスにワインを注ぎながら言った。「せっかく来てくれたんだからゆっくりしていって。」庭やリヴィングを案内しながら家の歴史を語る。現在フリッツが住まう自宅は、かつてロビン・レイルが暮らしていたという。「アリエッタを聴いたことはあるかい?僕は5歳の頃からピアノを弾いているんだよ。」おもむろにスタインウエィのピアノの前に座ったフリッツは『アリエッタ』を弾き始めた。
「Variation One(第一変奏)」から「Variation Four(第四変奏)」まで実にヴァラエティに富んでいる。奏でる旋律が今この瞬間飲んでいるワインのエチケットに描かれているピアノソナタだという事実に、しばし恍惚の境地にいざなわれる。「On the White Keys」は、白い鍵盤のみのスコアが38小節まで続くことに由来するといった話を、楽しそうに弾きながらよどみなく語るフリッツの口調に引き込まれていく。
Arietta’s Label
ベートーヴェンが残した最後のピアノソナタ「オーパス111 アリエッタ」直筆による楽譜の一部を用いたボトルである。この楽譜はクラシック音楽の頂点のひとつとして高く評価されており、アリエッタとそれに続く4つのヴァリエーション(変奏)から構成されている。穏やかな出だしが緩やかに大地を震わすように強くなる様は、まさに“クラシカル・ブギウギ”。”永遠なる音楽の世界へといざない、驚くほどモダンでありながら、まるで瞑想するかのように霊妙なクライマックスをむかえる。ベートーヴェンによるテンポの指示”Adagio molto semplice ecantabile”は、第一変奏を除くアリエッタの標題を持つ全ての音楽の最初の2小節の上部に手書きされている。
“Adagio molto semplice ecantabile”=はなはだゆるやかに、単純に、そして歌うように。
この事実を知れば、エチケットを眺める時の楽しみも増えるというものだ。
Arietta’s History
ロンドンに本拠地を置くオークションハウス「クリスティーズ」の米国ワイン部門のディレクターを務めているフリッツ・ハットン。ナパ・ヴァレー・ワイン・オークションのみならず、全米の主だったオークションには不可欠の存在であるこの名オークショニエーが、ジョン・コングスガードをパートナーとして『Arietta』をたちあげたのは1996年のことだった。共通の趣味というには、互いの人生にあまりにも深い関わりを持つ「クラシック音楽」へのパッション、そして「ワイン」に対する情熱が二人を強く結びつけた。
幸運も実力のうちとはよく言ったものだ。アリエッタは、非常にフルーツ※1(小さい表記)に恵まれている。カネロス地区はハドソンランチに位置する2.3エーカーのカベルネ・フランのブロックが二人の着想を実現に導いた。2000年ヴィンテージからは『H Block Hudson Vineyards』の名を冠したこのカベルネ・フランこそが、アリエッタのレッドワインの根幹を成すものである。同畑のメルローとシラーが、アリエッタのプロジェクトに広がりを与えている。
2005年にはハットン夫妻がコングスガードからパートナーシップの権利を買い上げ、単独オーナーになった。同年夏、天才の呼び声高いアンディ・エリクソンがコンサルティング・ワインメーカーとしてアリエッタのチームに参画。翌年夏にはそれまで造りを一手に担ってきたコングスガードが、1年の引継ぎを終えアリエッタをアンディの手に託したのである。
新ワインメーカーとなったアンディ・エリクソンが最初に着手したプロジェクトは、アリエッタにとって初めての白ワイン『ON THE WHITE KEYS』を世に送り出すことだった。フリッツ&カレン・ハットン夫妻にジョン・コングスガード、そして新メンバーのアンディ・エリクソン全員が奇しくも揃ってソーヴィニヨン・ブラン好きとくれば、ボルドーブレンドスタイルがアリエッタのポートフォリオに必要不可欠との意見の一致を見るに時間はかからなかった。エリクソンがソノマ・マウンテンは東向きの傾斜に位置する、ヒルサイド畑でソーヴィニヨン・ブランを見つけてきた。ヒルサイドはたいていカベルネ、ピノ・ノワール、シャルドネーといった
主要品種が植えられている中で、この畑はまさにHidden Jewelだ。コングスガードは、あのラリー・ハイドにアプローチ。極小区画といえるわずか2ブロック、しかしハイド・ヴィンヤードで最古のセミヨン・ブロックの長期買上契約を結んだのである。
2005 Vintage
自然条件に恵まれたナパの多くのワイナリー同様、アリエッタもまた収量に恵まれた良年を享受し、今秋各銘柄2005年ヴィンテージがフルラインナップで揃うことになる。初ヴィンテージとしてリリースされた昨年の『オン・ザ・ホワイト・キース』のブレンドは、ソーヴィニヨン・ブラン 65%、セミヨン 35%、生産量が350ケースだったことを思えば、そのヴィンテージの違いに興味をそそられる。
そしてアンディ・エリクソンが手がける初のレッドワイン2006年ヴィンテージがリリースされるのは来年。早くも2008年の到来が楽しみである。
– Arietta H Block Hudson Vineyard 2005
カベルネ・フラン 80% メルロー 20% 生産量:400cs
– Arietta Variation One 2005
シラー 70% メルロー 30% 生産量:400cs
– Arietta Cabernet Sauvignon 2005
カベルネ・フラン 16% プティ・ヴェルドー 8% 生産量:350cs
– Arietta Claret 2005
メルロー 68% カベルネ・ソーヴィニヨン 26% プティ・ヴェルドー 6% 生産量:350cs
– Arietta White Wine “On The White Keys” 2006
ソーヴィニヨン・ブラン 85% セミヨン 15% 生産量:450cs
-Notes-
※1フルーツ:米国のワインメーカーや評論家は、ブドウのことを「フルーツ」と表現している。
アリエッタのWEBサイトはこちらから
http://www.arietta-wine.com/home.html
※リポート内容は取材当時のものとなります