Vol.15 グレイス・ファミリー・ヴィンヤーズ チャリティ・ディナー

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プロローグ

4年ぶりの日本でのチャリティ・イヴェントに臨むディック&アン・グレイス夫妻が1月22日、日本の地に降り立ちました。メキシコの施設をめぐり、わずか1日だけカリフォルニアに戻ったその足で、日本へのフライトに飛び乗るという強行スケジュールをおしての来日です。
グレイス夫妻は「自分達の畑からできたワインで微力ながらも子供たちを助けたい」と願い、実行し続けてきた心熱きワインマスターです。今回「日本の難病に苦しむ子供達を応援したい」との想いから彼らのライブラリーセレクションをたずさえ、来日する運びとなりました。
サロンで一泊、しゃぶしゃぶを堪能しながらの息抜き後は、精力的にイヴェントに臨んでくれたグレイス夫妻。この活動の源となる思いをみなさんに伝えられることを願いつつ…。

パート1(グレイス・ファミリー・ヴィンヤーズ チャリティ・ディナー)

1月24日(土) パークホテル東京 於サロン クリストフル
主催: ワイン王国 VIVA California
協賛: パークホテル東京 タテルヨシノ リーデルジャパン 日本航空 宝酒造
寄付金はメイク・ア・ウィッシュ・オブ・ジャパンに寄付されます。
サロンクリストフル
ゲストを待つテーブル

この日のディナーは、パークホテル東京26Fにあるサロンクリストフルとサロンシノワを借り切って行われました。ワインやお料理の魅力もさることながら、グレイス夫妻の貫く趣旨をご理解いただいた上でのご参加をよびかけたものですが、全国から実にたくさんの方に参加表明をいただき、抽選となった次第です。

幸運なゲスト達がドン・リュイナール ブラン・ド・ブラン93年のシャンパーニュを片手に歩を進めたサロンシノワには、にこやかに迎えてくれるグレイス夫妻が。そしてディックの前にはあの有名な87年ポスターがあるではありませんか。左手にはお気に入りの茶色いペンを携えて、各ゲストの名前とメッセージを丁寧に書きこんでいくディック。そしてマリア様のようなおだやかな瞳で控えめながら会話を楽しみつつ、その光景をみつめるアン。普通ね、「マリア様の…みつめるアン」などというあざとい文章は書かない私ですが、これ以外に言葉は見つからないというほど的を射た&ハマッたその姿。アンに接したことのある人はきっと「そうそう」とうなずいてくれるはずであります。彼女の話し方は中学3年生でも聞き取り可能なほど。ゆーっくり言葉を選びながら気持ちや事実を伝えていくのです。けして相手が外国人だからというのではなく、もともとそういうおっとりした女性なのであります。

サロンシノワで繰り広げられる、英語でいうところの「アイスブレイク」タイムが功を奏し、緊張した面持ちだったゲストの顔がいつしかほころび、場が一気に和んでくるのが手に取るようにわかります。日本においてはワイン会と称される集いの最初の15分くらいはお葬式のよう。しかしゲストの熱い思いや緊張をくみとるがごとく、グレイス夫妻の気の利いた演出により和みの雰囲気は柔らかく浸透、ゲストどうしの会話も弾んでいきました。

ずらり並んだボトルは圧巻!

ディナータイムが近づき、和服姿やローブデコルテ、タキシードに身を包んだゲストがいざなわれるサロンクリストフル。「おぉ…」「まぁ、なんてステキ!」息をのむほど美しくセッティングされた晩餐会スタイルのテーブルに歓声があがります。その名のとおり、使われるカトラリーはすべてクリストフル製。ショウルームを兼ねたこのサロンには、クラシックなスタイルはもちろんのこと、ニューモデル発表時にはいの一番に届けられることになっています。この日もその柔らかさゆえに一般家庭でのお手入れは不可能かと思われるほどの、まばゆい純銀の重い感触を楽しんだのでした。

リーデルジャパンの協賛により並んだボルドーグラスと、おごそかなたたずまいを見せるグレイス・ファミリーのボトル群に目をやれば、圧倒された心持ちと高鳴る胸で賛辞の言葉さえも出てこない。これからどんな時間が待ち受けているのだろう。いったいいかなる味わいなのだろうか…。

まだ市場には出回っていない、ワイナリーが初めて手がける単一畑「ブランク・ヴィンヤード」とオリジナルの2001年をサイド・バイ・サイドで飲み比べた時の至福の時間。共通項や、全く異なるキャラクターに意見の花が咲き、どちらが好きかも意見は二分されておりました。2000年がことのほか優美で、今いただいても「あー、もったいない」とは思わないほど完成されていたことに驚かされたり。蔵出しの88年、80年と、めぐりあうだけでも幸運なヴィンテージを、グレイス夫妻の話を聞きながらともに楽しめる喜びは、きっとみなさんの素晴らしい思い出として残ることでしょう。通常のワイン会というと、終始ワインのコメントにかたよりがちな側面を持つのが自然な流れでありますが、この夜はディックいわく「こんなにワインのことを語るのは初めて」というほどのものでした。4時間のうち、トータル20分ほどでしょうか、ワインのお話は。VIVAのメンバーはすでにご存知のように、グレイス夫妻をここまで動かしめる子供達とのストーリーは聞いていて飽きないほど、引き出しが多いのです。

オークションボトル

通訳する私もタイヘンなんですが、ゲストもこらえきれずに…という、乗り越えねばならない瞬間が幾多もあり。私は今まで、彼が原稿を読み上げる姿を一度も見たことがありません。ぜーんぶ心の中に、そしてディックの記憶にきざみこまれているから、そして自分の言葉で「相手に伝わるように」表現して、話した相手の心の中で昇華させる術を知っているからでしょう。努力しているのではないと思う。ただ口から言葉を発するのは簡単だけれど、まことの意味で「相手に伝える」ことが自然にできる人はそうはいません。そしてディック・グレイスはそれができる人間なのね。人を惹きつけるのも道理かな、傍で見ていていつも感じます。

この日も、何故、今自分達がこの場にいるのかという理由をゲストに伝えるために、タリンという名の女の子のお話をしました。細かい内容はまたの機会に譲りますが、こういうシーンに慣れているはずの通訳する私が、ウルウルしてしまう始末ですから、居並ぶゲストはひとたまりも?ありません。特に女性がそろってハンカチを握りしめ、感動の涙々でワインがしょっぱくなったらどうしよう…!という状況に。ワイン会で泣かないよね、フツー。 あれれ、アンまで目を真っ赤にしているではないか。

デザートも堪能、そろそろディナーも幕を閉じようかという頃…吉野建シェフが登場。優れた野ウサギ料理に与えられる「リエーブル・ア・ラ・ロワイヤル」最優秀賞、「テット・ド・ボー(子牛の脳味噌の煮込み)」で煮込み料理の最優秀賞を受賞。いずれもフランス料理界最高峰の賞であります。自国民シェフをおさえての見事な受賞歴が物語る食材とメニューで、パーフェクトに盛り立ててくれた吉野シェフですが、実はシャイで口ベタだったのした。

幻のケイマス グレイスファミリーVYDS ’80

あれほど素晴らしいディッシュをサーヴしてくれたにもかかわらず、自慢気に語るわけでもなく、穏やかに感謝の気持ちを述べるシェフに業を煮やした『ヴィノテーク誌』の主宰者、有坂芙美子さんが、やおらマイクを奪います。「ちょっとあなた。そんなんじゃダメよー。わたくしがご説明申し上げるわ」ここでようやく前述した受賞内容、そして日本人が受賞することがいかなる理由を持つのか、というところまで言及したナイスフォローをいただき、ゲスト一同再びどよめくのでありました。

吉野シェフをもっと深く知りたい方には、こちらをお勧めします。
『 星をつかむ料理人 』 新潮社 吉野建 源孝志 1,600円

 

用意された『サイレント・オークション』は、静かに…しかし熱く!進行していきました。オークショニエのリードでパドル(落札番号札)を挙げて競り落とす一般的なオークションに対し、こちらはテーブルに置かれたワインの前に用意されたシートに希望落札価格と記名をして競り落としていく方法です。開催期間中、時間に束縛されることなく、静かに進行されることから名づけられた、米国で人気の高いシステムです。オークションに不慣れな人でも気軽に参加できる形態を取り入れることにより、チャリティの意義と収益を高め、楽しく充実したイヴェントになることを目的としています。

誰しも最初に自分の名前と金額を書き入れるのは勇気が要るものです。気にはなるものの、いつ書いていいのやら…。でも早く書かないと手の届かない落札値になってしまうかも…。さまざまな思いが交錯したことでしょう。

マグナムのサクセスフル・ビッダー
慈愛の文字、みえますか

おぉ、一番手は料理研究家の先生。ありがとう、ありがとう。おっ、マグナムには早くも40万円の値が!あれ?その上に書き込みがしてある名前は、ワイン王国の会長…!主催者だからって遠慮することないですないです。じゃ、私も書こうっと。デザートタイムからさらに活発さを増すのは、ディナーにおけるサイレント・オークションの醍醐味でしょうか。

「慈愛」の赤い文字が刻印されたマグナムエッチングボトルは75万円で、そして750mlのレギュラーボトルは12万5千円で落札されました。感激しながらいただいたワインの数々、空いたボトルさえ貴重なのはいうまでもありません。ゲストの提案による急ごしらえのライヴ・オークションで集まった6万5千円。ひとり$500以上の寄付をしてくれたら、クリスマスに2002年ヴィンテージをプレゼントする、なんて参加者へのオファーもディックから出てきたりして、もうすっかり気分はナパのオークション会場さながら。アカデミー・デュ・ヴァンの副校長による、麗しい香のたて方講座まで飛び出して(あ、どこかで聞いたことある!)たいへんな盛り上がりようでございました。

この日過ごした数時間が、ワインの楽しみ方やワインを通してめぐりあう新たな出会いの予感をふくらませてくれることを心から願っています。

今回の来日中の活動を通して、目標だった300万円をMAWJに寄付できる運びになりましたことをご報告できる喜びと感謝をこめて。

レギュラーボトルの
サクセスフル・ビッダー
吉野シェフがご挨拶に

– ワインコメント –

エチケットに謳っていないが、オーガニック栽培でカベルネ・ソーヴィニヨン100%のワインを造り続けているワイナリーである。

気品あふれる優美さでは群を抜くボルドー的なワイン。シルキーなタンニンと美しい酸のバランスがテロワールを表しているといえよう。凝縮感のある果実味とミントやスパイスの香りが見事に調和する。樽試飲時にふくよかさを感じ、すでにアプローチアブルになっている一貫した特徴は、ワインメーカーがハイジ・バレットからゲーリー・ブルックマンに変わった2001年以降も継続されている。

– 2001 Grace Family
– 2001 Grace Family Blank Vineyard

設立から25年目にして初めてワイナリーが全工程に携わった単一畑の名は「ブランク・ヴィンヤード」。クローン、接木、ヴィンヤード・マネージャー、ワインメーカー、施設など全て同じ条件です。唯一の違いは畑の位置という非常に興味深い初ヴィンテージ「2001」をサイド・バイ・サイドで飲み比べてみる。2001年はことのほかグレイとイヤーと云われており、エステートとケイマスから500mほど北に位置する畑のテロワールの違いにフォーカスしてみる。

オリジナルは凝縮感に富み、果実味にあふれる上質のカリフォルニアン・カベルネのキャラクターを呈しているが、やはり優美さが突出するこのワイナリーの一貫した仕上がり。こういう年は力強さが前面に出てくることが多い中、あくまでミンティ、アフターがすうっとするボルドー的な上品さを備えている。

ブランク・ヴィンヤードは、獣、黒果実の香が特徴的で、オリジナルと共通するのはエレガント=優美さ。樹齢がまだ4年と若いにもかかわらず、カラーも深みのある濃紫でポテンシャルの高さを感じさせるに十分な仕上がりとなっている。市場へのリリースは、2004年春。

– 2000 Grace Family
文字通り「グレイス」といった優美さを表す形容詞がぴったりの女性的なヴィンテージである。ミントやセージのハーヴ香に、微妙なバランスで果実がからみあい、若いながらも今十分に楽しめる。キャラクターが似ている1998年といずれサイド・バイ・サイドで試してみたい。

– 1988 Grace Family
予想以上にやわらかく、あまやか。上質のタンニンが熟成により、シルキーさを増しヴェルヴェットのごとく口の中で踊る。長い余韻を残すフィニッシュに果実味が戻ってくる様は、官能的である。

– 1980 Caymus Grace Family Vineyard
ワイナリーを始めて間もないこのヴィンテージは、サルファーなどのエラーで総生産量の40%を失った年である。残された果実は当然選りすぐりのものばかり。怪我の功名で非常に深みのあるノーズ、完熟した果実味、しっかりしたタンニンに支えられた長期熟成タイプといわれた背景がある。

グラスに注がれた時はピークを過ぎたか…と思いきや、30分後には見事な変身をとげた驚愕のワインだった。一番最後に注がれたワインだったため、そこまで時間をかけて検証した人は少ないかもしれないが、非常に興味深い結果をもたらした。

【ワインリスト】
– 1993 Dom Ruinart
– 1980 Caymus Grace Family Vineyard
– 1988 Grace Family
– 2000 Grace Family
– 2001 Grace Family
– 2001 Grace Family Blank Vineyard

※リポート内容は取材当時のものとなります

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