Vol.17-1 ミシュラン食事処 珍道中記 前編
ミシュラン食事処 珍道中記前編<プロローグ>
珍道中記パート1
<私が得た教訓>
ミシュラン食事処 珍道中記前編<プロローグ>
雪降りしきるパリ、降り立った2003年1月末。今回の目的は「食べること」でありました。
ガイドブックだけではわからない本当の姿を求めて。
果たしてとっても興味深く勉強にもなり、納得できたこと、感動したこと、首をかしげること…素直に感じたままをつらつら書いていこうと思います。
一消費者&旅行者として知りたいこと、知っておくべきこと、ガイドブックには載っていない「生情報」はVIVAの真骨頂でもあります。 まずこの年行ったお店と順番から。
1)ミシェル・ブラス | MICHELL BRAS | 洞爺湖 |
2)ランブロワジー | L’AMBOISIE | パリ4区 |
3)グラン・ヴェフール | GRAND VEFOUR | パリ1区 |
4)タイユヴァン | TAILLEVENT | パリ8区 |
5)オーベルジュ・ド・リル | AUBERGE DE L’ILL | アルザス・イロイゼルン |
6)ビューイーゼル | BUEREHIESEL | アルザス・ストラスブール |
7)ボワイエ | BOYER “LES CRAERES | ランス |
8)ラムロワーズ | LAMELOSIE | ブルゴーニュ・シャニー |
★とりあえず率直な「感想一言」シリーズ
【1】一番味が美味しく感じたのはダントツ 8)ラムロワーズ
トリュフソース、ここに極まれリ。そうそう、これが「トリュフソース」というものなのだ!を実感。詳細は後述しますが、これだけ食べた最終日、胃も疲れ果てていたはずなのに完食できた上デザートにまで手を出し、翌朝のブレックファストも美味しくいただけたのはラムロワーズだけ。心から脱帽です。
同様に一番に挙げたいのが1)ミシェル・ブラス。ただし洞爺湖にあるこちらのワインリストは日本価格なのがイタイところ。
【2】一番サーヴィスがよかった=ATTENTIVEだったのは、文句なく7)ボワイエ
入り口に入る前から、食中食後、そして部屋に戻る瞬間まで心の底から気持ち良くお食事させてくれました。淑女を淑女然たる、おごそかかつ麗しくエスコートしてくれる姿勢に背筋ものびるというものです。緊張させすぎずに気持ちよく客をもてなす、という意味では4)タイユヴァンも白眉に値。
【3】ソースに独創性があったのは5)ビューイーゼル
ガイドブックそのままの神経質そうな(学者のような風貌にもみえる)シェフはニョクマムまで使いこなし、オーセンティックな三ツ星に風穴をあけたかのようです。ちなみにここで飲んだワインで私は落涙。テーブルでぼろぼろ涙がとまりませんでした。
【4】プレゼンテーションの美しさで逸脱していたのは6)オーベルジュ・ド・リル
サーヴィスもワインも素晴らしく、日本皇太子来訪時写真まで飾ってあり、期待は高まったのですが…。半分も食べられなかったのは非常に残念でした。
出てきたディッシュは、いずれもガイドブックの写真そのまま、フォークを差し入れるのがためらわれるほど美しいプレゼンテーションではありました。だけど…やはり旨みを尊う日本人の舌とフランス人の味覚には差があるのだと思いました。
【5】一番予約のとりにくいお店は、他店をグーンと引き離して2)ランブロワジー
英語も仏語も流暢に話せない日本人が多々イヤな目に遇っている、と聞き及んだこのお店。フランス大使館で働く知人に頼んでも、日本ダイナースクラブのデスクに頼んでも、とれないものはとれない!と嘆き悲しみ、やっと予約がとれたと思ったら無体なもてなしをされたと憤懣やるかたなき紳士淑女の思いを肩にのせ…いざ!ここでのグラスのお話もあわせて、また後ほどゆるりと…。
【6】ライヴリー&フレンドリーな雰囲気NO.1は圧倒的に3)グラン・ヴェフール
オリエント急行の車内を思い起こさせる赤いビロードのベンチと椅子。ギャルソンもソムリエもきびきびと、それはそれは小気味良く働いています。活気があふれ、にぎやかな雰囲気と品位を両立させているお店です。客も店側もここが「三ツ星」のレストランだということを十分に認識して、それに相応しいドレスコードや立ち居振る舞いをしているからにほかなりません。うっとりするキャビアの前菜に、目の玉がとびでるお勘定書のお話は次回までのお楽しみにしておきましょう。
珍道中記パート1
1)ミシェル・ブラス | MICHELL BRASS | 洞爺湖 |
2)ランブロワジー | L’AMBOISIE | パリ4区 |
3)グラン・ヴェフール | GRAND VEFOUR | パリ1区 |
4)タイユヴァン | TAILLEVENT | パリ8区 |
5)オーベルジュ・ド・リル | AUBERGE DE L’ILL | アルザス・イロイゼルン |
6)ビューイーゼル | BUEREHIESEL | アルザス・ストラスブール |
7)ボワイエ | BOYER “LES CRAERES” | ランス |
8)ラムロワーズ | LAMELOSIE | ブルゴーニュ・シャニー |
1)ミシェル・ブラス MICHELL BRASS(洞爺湖)
歯に衣きせぬ感想とPROS & CONS(長所と短所)一番味が美味しく感じたのは(私の口にあったのは)この1)ミシェル・ブラスと8)ラムロワーズということはお伝えしました。ひとつひとつ羅列していくと長くなるので、今回はメインディッシュのみ。おおむね、さまざまな雑誌で伝えられているとおりの印象そのままです。
おぎゃーと産まれて早○年、こんなに美味しいブレス産の若鶏胸肉を食べたのは初めて!だと思いました。たとえ冷めてもその身は柔らかさを失わず、ジューシィで、普通だったらイヤなはずの脂身さえも上質、口の中でさっととろけていくかのようでありました。ブラウンソースもバター主体とはかけはなれ、むしろ足りない…と感じたくらい。お店の人が気を利かして、熱いソースを小鍋に入れて持ってきてくれたら、少なくなるソースを気にして悲しくならなかったかも。(ラムロワーズではトリュフソースをそうやって追加してくれたので、最後の瞬間までおいしーくフィニッシュ)。
地元の蝦夷牛も捨てがたし。ただし、サシがたくさん入った特選神戸牛タイプがお好きな人には「うーん」と言われてしまうのだとか。私はだんぜんフィレ派。北国の短角牛など「噛めば噛むほど味が出る」ような赤身のお肉が大好きなので、とっても気に入ったわけですが。
これもソース多めでって頼んでおけばよかった。ランチをとった翌日にディナーに行くと「昨日お召し上がりになったものもございますので…」と、コース外からも選ばせてくれるなど臨機応変。
グラスも日本では当たり前のようになっているリーデルが揃っています。(後にこれが当たり前ではないことをかの国フランスで知る)が!ワインリストが日本価格なのがイタイところ。トレヴァロン90年が4万8千円。ランチの時にトライしたジャン・ルイ・シャーヴの91年エルミタージュが2万5千円。次回はカリフォルニア持込みにしたいよー(笑)カリフォルニアは意外と良心的な値づけだったかな?と一瞬思ったのですが、あくまでも良いフレンチと比較して、が条件で「安く感じる」だけかも。ナパでの値段を知る私には、カリフォルニアもやはり手を出しにくかった…。ABCのイシ・ラバをおいてあるあたり「あら」と思わせてくれたりしたけれど。「ニューオープンなのでかき集めたけれど今はこれが限界」というリストはやっぱり若いワインが大半をしめていて、古酒が好きな人にはものたりないでしょう。もちろん上述のワイン状態はいずれもパーフェクトでありました。
料理自体は他の三ツ星と比較しても本国と同じような価格設定ですが、ワインの値段で大きく水をあけられている感が否めないかなー。ソムリエ(カリフォルニアはあまりご存知ないようでした)&ギャルソンは、適度な緊張をもたせつつも非常にフレンドリー。質問にはニコニコ的確に答えてくれるし、きびきびした立ち居振る舞いが心地良く、安心していられます。いつ行ってもものすごーく空いているので(たとえクリスマス・イヴでも!)、予約は簡単にとれます(ました)。クロスや窓からの景色がまぶしいほど真っ白だったせいか、雪の世界に足を踏み入れる、という印象。お洒落のしがいもあるでしょう。背筋をピンと伸ばしてゆったりと食事をしたい空間がきちんとつくられています。
夏と冬では外の景色と食材が違う(特に野菜)ミシェル・ブラス。景色にうっとりしたいなら断然ランチがおすすめ。メニューも値段もかわらないけれど昼は天気が良ければ洞爺湖にうかぶ中ノ島や羊蹄山&有珠山、はてはルスツの方までずーっと見渡せますが、夜は真っ暗でなーんにも見えません。冬は一面銀世界、そしてきっと夏は青々とした草原、という北海道の自然の恵みを力いっぱい享受するロケーションの素晴らしさは群をぬいています。
【独り言】
どうかどうか、いつまでもその美しい姿(店)をこの地にとどめてください。ワインリストはもう少し古酒を増やしてほしいなー。
2)ランブロワジー L’AMBROISIE パリ4区
歯に衣きせぬ感想とPROS & CONS(長所と短所)一番予約のとりにくいお店は、他店をグーンと引き離してこちら、ということはお伝えしました。
のっけの予約からして非常にガードが固い。お店が客を選んでいるような印象を受けました。私は米国のAMEXのコンシェルジュから予約をとったのですが、きっちり1ヶ月前まで待たされ、その日に電話を入れたらディナーはNG、残るテーブルはランチだけという返事だったそうな。日本から渡仏する場合、時差の関係でランチのほうが美味しくいただけるような気がするので、テーブルさえ確保できればよしとしましょう。
ちなみに予約に関してちょっと忌憚のないコメントを。ダイナースは「ステータス」をウリにしているわりには、コンシェルジュの機能はいたってお粗末、というのが私の偽らざる感想です。希望の予約が取れても取れなくても一店につき3,000円の手数料をとります。取れなくてもってどういうこと…?レスポンスも遅いし、電話がつながる時間も制限されているし、ちょっとポイント低いかなー。AMEXはその場で回答がわかるうえ、もちろんコンシェルジュサーヴィスは無料。私がコレクトコールでかけた電話はたまたまケンタッキーにつながり、応対した女性が「少しお待ちくだされば今ここからパリに連絡をとってみます」。待つこと5分ほど。「お席を5人のパーティでお取りできました。」これでオールセットです。メールで依頼すると翌日にはきっちりレスポンスが来る迅速さ。リコンファームも一手に引き受けてくれるので便利なこと、このうえありません。手分けして予約をとった三ツ星のお店、AMEXで手配したものはすべてとても良い席で、手違いも一切なかったことを付け加えておきましょう。
さて、苦労してようやくゲットしたテーブル、フランスに着いて一番最初に訪れるランブロワジーに期待はいやおうなく高まるというものです。前回頼んだワインのエチケットが完璧にはがれたものを持ってこられて怒り心頭の経験を持つジェントルマンも同席しています。ボランジェの90年フルボトルで始まったランチ・バトルと思いきや、なんだかずいぶん丁寧、親切。話がちがうじゃない?しかし。ワイングラスが小さいのよー。なんで?っていうくらい小さい。日本人だからやっぱり差別されているのかと思い(ちょっと被害妄想入ってる)化粧室に行くふりをし、すべてのテーブルをさりげなくチェック。はたしてグラスの大きさに変わりはありませんでした。どんなに古いボルドーやブルゴーニュでも、若い白でも同じグラス。ふーむ…。この理由は後述します。
ギャルソンたちの肌は透きとおるように白く、ひょろ~っと背が高くなんとも貴族的な風貌をただよわせ、彼らの接客態度も他の三ツ星とは一線を画します。ここの特徴は笑顔は少ないけれど冷たいまでにビシーッとした「完璧なサーヴィスを享受できること」かと気づいたのでありました。それに話しかければ当然のってくるし、いかめしい顔のメイトレDの笑顔を見ることだって難しくはありません。帰り際、お店の大きなメニューにオーダーしたディッシュと飲んだワインの銘柄を手書き&シェフのサインまでしてくれたうえ、こちらが思わず苦笑するようなジョークまでとばしてくれたのでした。
★【重 要】★
欧米ではエチケットを持ち帰る習慣がないので、「ほしかったらボトルごと」とお心得あれ。しかも最初にその旨を伝えておかないと、カラになったとたんにボトルシューターへ直行なので、意地悪しているのではなく本当に手に入らなくなります。エチケットコレクターの方はご留意されますよう。
肝心のお料理の話はどうなっているー?!ですね。今回は前菜一品にフォーカスします。
1月はトリュフの旬。どこでもふんだんに使われる黒トリュフのかぐわしい香りは今も記憶に残っていますが、ここの前菜「トリュフとフォアグラのパイ包み焼き」は「量と値段」がダントツ1位。うやうやしく差し出されたディッシュが目の前におかれ、パイ包み焼きにサクッとナイフを入れます。湯気とともに立ちのぼるえもいわれぬ香りが鼻腔をくすぐり、思わずまぶたを閉じ静かに深呼吸。…中にころっとした、まるで「じゃが芋まるまる一個なみ」のトリュフがフォアグラの上にでーんと鎮座しています。スライスや刻みに慣れている人だったら思わずのけぞる大きさ。おいもを食すかのごとき大胆さでフォアグラからしみ出てくるジュとからみあう「コリコリ、ホクホク」丸ごとならではの食感を楽しみます。お値段も前菜一品で130ユーロ=17,750円。まぁ、あれだけの量のトリュフをモコモコいただくのが美味に感じるかどうかは人それぞれだと思いますが、トリュフまるごと一個、というのは生涯忘れえぬ思い出となりましょう。
前述したグラス&もてなしに対するTIPS、私なりの見解を申し上げましょう。とくにランブロワジーの場合。
★【お店からきちんとしたもてなしを受けたかったら】★
ガイドブックに書いてあるようなことは割愛します。今回、とくに男性諸君にお伝えしたき儀あり。
日本人なんだからそんなことできるか!と頭から決めてかからず、耳をおかたむけあれ。郷に入れば郷に従え、でございます。きっとお店からきちんとしたもてなしを受けること間違いなし!
1、「グループに女性が混じっている」「妻や恋人と一緒にいる」時のエスコートの仕方を彼らはチェックしています。
①コートを着せたり脱がせたりは、お店の人ではなく貴殿のお役目ですぞ。自ら引き取ったコートをお店の人に渡す。これが美しい身のこなしというものです。必ず女性のコートが先。自分がまず着てから…というのは大きくNG。
②女性が席につくまで着席を待ってあげましょう。たとえばグループで現地集合だったりした場合(今回たまたまそうだったので)女性がもし後から来たら、もしくは化粧室から戻ってきたら、必ず席をたつ。これは基本中の基本です。躊躇してはなりません。もう朝の歯磨き状態で習慣づけてください。日本男児、こういうとき腰がひけてへんに中腰になるからみっともないです。(今回同行した人たちネ(笑))背筋をのばしてがGOOD。日本ではそんなことしないから…は理由になりません。「マナーの基本もわきまえないような東洋人」と思われ、それなりの扱いしかしてもらえないよりよっぽど良いではありませんか。
2、オーダーする時の態度でお店側のずいぶん変わってきます。
こちらは男女共通ですけれど、女性のほうが表情やしぐさが柔らかいのでやっぱり男性陣に留意していただきたいことです。英語、仏語どちらもなぁ…という場合、いっぱいいっぱいなのはわかります。発音できないならメニューを指さすだけでもよいでしょう。カナールをダックと言い換えてもまったく差し支えありません。でも能面のように無表情だったり、しかめっ面をしながらオーダーするのはやめましょう。笑顔がベスト。そんなこと言ったって、余裕がない時に笑えるか…と思うのはごもっとも。笑顔が出ないならせめて口角をあげましょう。たとえ目が笑っていなくても、ちょっと口角を上げるだけで表情がなごんだように見えるからあら不思議。仏頂面をしてオーダーする客より、和やか、かつにこやかな客に向かうほうが店のスタッフも(特にランブロワジーのような所では)自然と表情が柔らかくなるみたいだから。なにもお店にへつらい迎合しろと言っているのではありません。ミシュラン三ツ星の定義で言うなら、それだけの目的でフランスまで渡るのだから美味しく楽しい思い出を持ち帰ったほうがコストパフォーマンスも良いというもの。イマイチピンとこない方、リチャード・ギア&ジュリア・ロバーツ主演の「プリティ・ウーマン」を再度ご鑑賞を。とても参考になります。
★【グラスサイズのおはなし】★
ここ一軒だけではこの結論は出せなかったけれど、後々そうか…と納得したことは、フランスでは大きいグラスはそんなに評価されていない、もしくは好まれないということでした。もっともマドレーヌ広場にワインショップを構える店主に言わせると、安いワインをガブ飲みする人口が非常に多く、フランス人の90%が良いワインに対する知識を持ち合わせていないのだとか。
パリのお店は概して小さいのが特徴。地方に行くほどグラスサイズが大きくなるという傾向にあります。ランブロワジーのメイトレDいわく、「フランス人は長い時間をかけて食事をとる習慣上、あんまりグラスが大きいとすぐに酸化してしまって味が落ちる」そうな。今、米国や日本ではリーデルの大きいグラスが主流なのだと告げた私にウィンクしながら英語で囁いたセリフは…。
「BIG GLASS BUT SMALL WINE.」こりゃ、一本とられましたか。お後がよろしいようで。
【飲んだワイン】
ボランジェ 90年: 191ユーロ=¥26,000
ミジュニー ルロワ 97年:275ユーロ=¥37,000
ピション・ラランド 88年:283ユーロ=¥38,000
リストにカリフォルニアワインはなし。
1ユーロ=約¥135 2003年1月時点
3)グラン・ヴェフール GRAND VEFOUR パリ1区
ライヴリー&フレンドリーな雰囲気NO.1は圧倒的にこのお店、ということはプロローグで、お伝えしました。
ランブロワジーは笑顔が少ない分、冷たいまでにビシッとサーヴィスを供する店。気持ち良く過ごすコツは、冗談のひとつも言って向こうを笑わせるくらいの気持ちがあることが大切かな、というコメントをお届けしました。グラン・ヴェフールは、うってかわってみーんなニコニコ&フレンドリー。オリエント急行の車内を彷彿させる赤いビロードのベンチと椅子。ギャルソンもソムリエもきびきびと、それはそれは小気味良く働いています。この活気があふれ、品位を保ちつつもにぎやかな雰囲気が自然とリラックスした気分にさせてくれます。はりつめていた気持ちとお財布のヒモがゆるみます。今回訪れたお店のうち、唯一カリフォルニアワインのラインナップが充実していたということも手伝い、とてもあたたかみを感じました。
カリフォルニアワインを詳しく解説できるほどではなく、コメントとしては「いいワインですよ。うちでもこれが最後の1本です」くらいのものでした。その間もこぼれるような笑顔をたやしません。ものすごーくお洒落をしてスノッブに振舞いたい人にはちょっと拍子抜けするかも。そうそう、ここのワイングラスも小ぶりでした。ここのハウス・シャンパーニュはテタンジェN.V.。グラスを目の高さまで持ち上げトスした後は、時間をかけてメニューのチョイスです。鳩やソールのメインよりもやっぱり特筆すべきは前菜のこれでしょう。『Caviar Oscietrre a la cuillere』
カナで書くのは難しい「オシェートラ・キャビア」に小さいポテトパンケーキが添えてあります。
ここで、覚えておくべき重要な事柄=キャビアは『1人前2スクープ』と心得ること。
つまり、見目麗しき色白のギャルソンが漆黒に輝く宝石の粒をスプーンでひとさじ、ふたさじ…とすくってお皿に盛ってくれたら、それがメニューに載っているプライスです。「マダーム or ムッシュゥ、モアー?」なんて顔を寄せられ、ハシバミ色の瞳と視線が絡みあいうっとり&うっかり「イエース or ウィー」なんて口走った刹那…。もうひとさじ=メニュープライスの1.5倍。さらにもうひとさじ=あっという間に2倍のお値段。手元に来てから目の玉とびでるナイスな勘定書き。でもここはパリの三ツ星「グラン・ヴェフール」です。「そんなぁ…ひとこと言ってくれていればこんなに頼まなかったのにぃ…」などと文句を言う人などいるわけありません。てなわけで、私たちのグループ5人中4人が頼んだキャビアの前菜=465ユーロなり。前菜だけで。しかもベルーガではなくオシェートラなのに、これからワインもメインもデザート&ティーも頼まなくてはならないのに。って、お勘定が来るまでわからないから食事中はハッピーです。
こんなにも賑やかで人々の会話や笑い声でさんざめいているのに保たれる品位。客も店側もここが「三ツ星」のレストランだということを十分に認識して、それに相応しいドレスコードや立ち居振る舞いをしているからにほかなりません。一緒にいる犬もお行儀の良いこと!ミシュランのガイドブックを見るとワンちゃんに斜めのラインが引かれて「犬はダメ」のサインがついているものがあります。驚くなかれ、三ツ星のほとんどが犬を店内に連れてきてもOK。ただし。行儀の悪い人間の子供よりよっぽど躾が行き届いており、私の向かいのテーブルにいたリトリヴァーは、4時間強ただの一度も吠えたり立ちあがることもなく、ひたすら静かにマスターが楽しくお食事するのを見守っていたのでした。お利口な彼の名は何故かGARY(ゲーリー)。愛犬と一緒にランチなんて本当に素晴らしいことです。 VIVA ! FRANCE.
【飲んだワイン】
テタンジェ N.V.(グラス): 16ユーロ=¥2,160
コルトン・シャルルマーニュ Martrey 97年: 215ユーロ=¥29,000
マジ・シャンベルタン L.Max 89年: 212ユーロ=¥28,500
グロス カベルネ 84年: 77ユーロ=¥10,500(カリフォルニア)
リストにカリフォルニアワインは10種類ほど。
1ユーロ=約¥135 2003年1月時点
4)タイユヴァン TAILLEVENT パリ8区
何かの手違い、もしくはコンフォメーションをし忘れたかの理由で、今パリで一番人気の「ルドワイヤン=LEDOYEN」にしてあった予約が反故になった夜。パリ1区、コンコルド広場に近い森の中にたたずみ、ルイ15世時代から続く伝説のお店が昨年三つ星に昇格して以来、パリっ子の話題独占のお店です。「えー!楽しみにしていたのに…」「AMEXから予約をしておけばよかった…」嘆いても後のまつり、同行のジェントルマンを責めるわけにもいきません。紳士・淑女たるもの、ここでパニくってはならないのであります。ゆっくりコンシェルジュのいるデスクに歩を進めましょう。彼らはローカルの情報をがっちり握っています。どんなことでも相談すれば、たいていのことはたちどころに解決してくれる強い味方。日本では「ゲスト・リレーションズ」というのかな?もちろんハイクラスのホテルほどコンシェルジュの顔が利くことは言うまでもありません。知人がリッツに1週間連泊した時の対応の素晴らしさは、筆舌にしがたいほどだと自慢していました。どんなお店も当日予約でOKだったらしいよ。万が一に備えて、ホテルもクラスで選ぶ=教訓であります。
というわけで、ホテルのコンシェルジュに活躍してもらい急遽席をゲットした「タイユヴァン」。これが大当たり!!パリに来てから3件目、一番気持ち良くお食事ができました。お店に入った瞬間からあなたは王子様 or お姫様かと思うような丁寧なエスコートで「あー、お洒落してきてよかった!」と思わせてくれる雰囲気に満ち満ちているのであります。「こちらへどうぞ」と席に案内する間も微妙な角度で微笑みをたたえた横顔を見せながら、後ろを歩く私を気遣い、席に着く時もけしておざなりではありません。きちんと私が気持ちの良い位置におさまるまで微調整をしてくれます。ナプキンを広げる手さばきもダイナミックな動きなのに優雅さを備え、白い布が膝上におかれると同時に満面の笑顔。前座活動は完璧です。
「これから素敵なディナータイムになるんだな」と思わせるに十分な見事な客あしらい。それでもスノッブな感じを持たないのは「スマイル」が功を奏していると確信します。たとえ営業スマイルであったとしても、ここまですればあっぱれというほかありません。どこのお店でも新人クンはいるもので、ここでも白いジャケットに身を包んだ可愛い男の子がグラスシャンパンを持ってきてくれました。
ケ 「これは、なあに?」
彼 「…?」
小首をかしげ「シャンパンです」
ケ わかっとるわい!銘柄を聞いたのだー!
あら、淑女たるもの上品にせねば。にっこり笑顔に戻してもう一度。
「ええ、おいしいシャンパンだわ、銘柄は何かしら?」
彼 「あ、すみません。ちょっと聞いてきます」
ま、いろいろあります。立派なギャルソンだって誰でも最初は新人ですものね。ちなみに銘柄はデューツDEUTZでした。
日本人が多いらしく、今回巡ったお店で唯一日本語メニューがおいてありました。でも英語と日本語メニューはコース料理しか出ていません。アラカルトを楽しみたいならやっぱりフランス語を勉強しておいたほうが良いみたい。フォアグラ、鴨、ひらめ、トリュフ…。定番メニューが多い中、光を放った一品が『SOUPE AUX MORILLES モリーユのスープ』40ユーロ。あり?スープ一杯5,400円なり。
しかし他のディッシュがあまりにもお高いので(トリュフをつめたチキンが160ユーロだったり)安いと錯覚してしまいます。が、これは今まで味わったことのないテイスト。希少なモリーユを本当にふんだんに使ったんだなーというのが最初のひとさじでわかります。薄いマッシュルーム色には、幾度も苦い経験がある私。しょっぱい味つけだったらどうしよう…との心配に反して、濃厚だけれどしつこくないクリーム仕立て。モリーユは跡形もなく、スープに溶け込んでいます。ひとさじ含んだ時にモリーユの香りが口中いっぱい広がり、そして鼻腔にもぬけるさまはさながら極上ワインのブーケ。「もうメインはいらないから、もういっぱいおかわりしたいなー」とまで思ったこのスープ、イチオシの逸品です。
ワイングラスは、前の2店よりやや大ぶりでした。でも厚みは結構あるかなー。パリの三つ星が用意してくれるグラスの質は、日本や米国でリーデルの、しかもソムリエシリーズなんかに慣れている人には驚愕の事実ですね。頭で理解したつもりでも心のどこかで「あぁ、この素晴らしいワインをもっといいグラスで飲んでみたい…」と思ってしまうのは人情というもの。しかしそんなことは補って余りある質の高いワインを供するあたりが、その品格と威厳を保つ「店の格」というものなのでしょうか。
この夜のムルソーには、脱帽の一語につく思い。ミネラル香がするだとか、ヘーゼルナッツが云々などと、フレーヴァーを表現することさえ叶わず。たった一言「おいしい…」とつぶやくのが精一杯でした。旅をしていない、最高の状態で保管された古いフレンチホワイトをいただいた初めての夜だったのだと思います。
当然ではありますが、パリの三つ星は地方のそれに比べ圧倒的に値段がはります。特にワインの価格に顕著。しかし、グラスの大きさは比較的小ぶりで値段とは反比例?これに関してはしつこいようですが覚悟しておきましょう。ユーロドルに貨幣が統一され、サーヴィス・チップのシステムも変わったようです。パリ市内では勘定書きに記載された総額にサーヴィス料を15%ほど加えてお支払い。でも郊外のお店では「すべて含まれていますから」とビルに書いてある値段そのまま。見た目はどちらの勘定書きも同じ書き方です。不思議なことにぱっと見ただけではサーヴィス料が含まれているのか判断できないので、サーヴィス料やチップを二重に払ってしまうことになりかねません。支払いの時は恥ずかしがらずにお店の人に良く確認してからサインをしましょう。いよいよパリを後にして、次は待望のアルザスへ!
【飲んだワイン】
DEUTZ N.V.(グラス): 19ユーロ=¥2,565
ムルソー Cochy Dury 85年: 270ユーロ=¥36,500
ヴォーヌロマネ Clos Parantoux Emmanuel Rouget 94年: 390ユーロ=¥52,500
トカイ Asux Birsalmas 95年: 110ユーロ=¥15,000
1ユーロ=約¥135 2003年1月時点
5)オーベルジュ・ド・リル AUBERGE DE L’ILL アルザス・イロイゼルン
今回期待していたお店NO.1候補だった「リル」。下調べに余念のないパートナーが自慢げにぬぅっと差し出すカラフルなガイドブック。『大人のためのフランス三ツ星レストラン』ラピタ・ムック小学館で、なぜか私の心と目を奪った一店です。【家族経営で守るアルザス屈指の歴史的名店】なんて書いてあるうえ、1989年に世界No.1になったマスターソムリエ、セルジュ・デュプス氏が考案したリースリングがことのほか美味しく飲めるグラスが用意されているとの表記が。「グルヌイユ(カエル)のムースリーヌ」や「半熟卵のミルフィーユ仕立て」などフォトショットも素晴らしく、実は半熟卵とカエル好きの私はいてもたってもいられず!の状態。隅々まで熟読、心の準備は万全でございます。
パリのオルリー空港から一路ストラスブールへ。極寒の冷気が身体を包むイロイゼルンは空港から車で40分、ドイツとの国境近くに位置します。パリではプジョーやルノー一色だったTAXIの車種も雪化粧したメルセデスやワーゲンに代わっています。それにしても寒い。
店内は白と緑を基調に春のようなあたたかみのある空間が広がり、この雰囲気に負けない明るく爽やかなサーヴィスが心地良く、外の寒さを忘れさせてくれます。通路には日本皇太子来訪時の写真が飾ってあったりして、親日家なのかなーなどと感じ入りウキウキ、メニューを広げると「あ、これこれ!」本に載っていたのとまったく同じディッシュが同じ値段で出ているではないか。最新情報をもとにはるばる来た甲斐があったよねー。ワインのお値段はパリと比べるとずいぶんリーズナブルだし、以前お伝えしたようにグラスも値段に反比例して(笑)大ぶりです。念願の「グルヌイユ(カエル)のムースリーヌ ポール・エーベルラン風」37ユーロと「半熟卵のミルフィーユ仕立て」30ユーロを迷わずオーダーします。
パートナーも負けじ吟味の上、私のセレクションよりお値段の高い手長海老や春鹿のノワゼットを注文しています。高いといってもせいぜい46ユーロ程度。パリでもこもこトリュフの前菜に130ユーロも散財して、ほとんど金銭感覚の麻痺したフトコロは痛くも痒くもないのでございます。具合が悪くなるのは日本に帰ってカードの請求書が来てから。
はたして運ばれてきたディッシュはいずれも脳裏に焼きついていたガイドブックの写真そのまーんま。フォークを差し入れるのがためらわれるほど美しいプレゼンテーションでありました。だけど…旨みを尊う日本人の舌とフランス人の味覚は差があるのだと感じました。
後に判明したことは、私が注文したのは今も大切に受け継がれているという、父親ポール・エーベルランの考案した料理。そうよね。メニューに冠で出てるじゃない「エーベルラン風」って。昔ながらの濃ゆーい味付けなのでした。ちなみに星がひとつ少なくなるとの噂を苦にして命を絶ってしまったベルナール・ロワゾー率いた「コート・ドール」(ブルゴーニュ・ソーリュー)でいただいた牡蠣のスープも私にはあわなかったな…。でも息子マルクが作るものはここまで濃くはありません。なにごとも経験でしょうか。
さて。食事でメゲてるだけではいけません。ワインを愛でようはないか。アルザスといえばリースリング。日本では飲めない銘柄をこのときとばかり。そう、日本にはけして輸出されない銘柄をナパの地で楽しむがごとく。ウワサのフチが少し広がった形のアルザスワイン用グラスがそっとテーブルに置かれます。とゆーわけで下記ワインをオーダーしたのでありました。清々しいミネラル香が印象的。美しい酸がキリッとたっているのにダイナミックなオイリーさがまろやかさを誘発し、口中いっぱいに広がります。こういうワインを飲まずしてアルザスを語るなかれ。ジャスミンの高貴なノーズが顔をのぞかせそれはもううっとり…。
が。しかし。が再び登場。ハーフにしたのは大失敗。最初の一杯はノーズも清冽で感激のあまり、グラスを持つ手が一瞬止まったほどだったのに。1時間も経たないうちにへたってしまいあらあらあら…。
★【教訓】★
飲みきれないならソムリエに残してあげるくらいの気持ちでフルボトルを注文したほうが結局コストパフォーマンスが良くなることを学びました。次のニュイ・サンジョルジュは若くキビキビしたソムリエが「デキャンタージュをしましょうか?」と持って来ました。みなぎる自信あふれる、にこやかなソムリエ氏のオファーです。みなさんなら、どうされますか?
★【私の意見】★
私たちは笑顔とともにお断りしました。(笑顔が肝心でございますよ)ブルゴーニュは絶対にデカンタージュしない!のが私の主義。味が平坦になってしまってドラマチックな変化が楽しめなくなります。そういえばサンフランシスコのリッツ・カールトンのシェフ・ソムリエも同じ意見でした。自分の信念は、たとえ三ツ星のソムリエに薦められたからといって、翻るものではありません。「WE PREFER NOT DECANTED」と簡単に伝えれば十分でした。
相手のオファーを断る時はくれぐれもコワイ顔のまま言わないようにしましょう。余裕がないときは口角を上げるだけで違うっておぼえてますか?先方もプロです、気分を害することなどありません。フランスでは相手も英語が完璧というわけではないので、ゆっくり簡潔にするのが肝心かと。
【飲んだワイン】
シャンパーニュ 銘柄失念 (グラス): 11ユーロ=¥1,485
Ste Hune Riesling 90年 Half: 113ユーロ=¥15,255
Nuits St Georges Les Boudots (Meo Camuzet ) 90年: 210ユーロ=¥28,350
1ユーロ=約¥135 2003年1月時点
6)ビューイーゼル BUEREHIESEL アルザス・ストラスブール
オランジェパーク内に位置するこのお店、頻繁にチェックしたガイドブックには【地元素材にこだわる公園の中の迎賓館】という文字が躍っていました。文字が躍れば心も踊る。メイトレDの洗練された笑顔がバックの緑に鮮やかに映える入口のドアを横切り、案内されたランチをいただくテーブル。ガイドブックに記載のあった『ランチならガラス張りのダイニングがおすすめ』というお部屋ではなかったけれど、窓際の公園が見渡せるナイススポット。スタッフはみんなにこやかなのだけれど、でっぷり太ったソムリエのおじさまは笑顔の少ないドイツ系?と思わせるほど重厚なかんじ。言わんとすること、おわかりですか?要するにあんまり愛想はなくて、人によっては威圧的と感じるかも…な対応なわけ。ワインの良し悪しがわかるのか?と思っているのか…。はたまたリスト見始めるとアルザスだけでなく、飲み頃ブルゴーニュの銘醸品が目白押し。時間も忘れてくいいるように見るからだろうか…原因は不明。
だがしかし。ワインを選ぶ段になって彼はとても嬉しそうに笑った。選んだ銘柄が彼のお眼鏡にかなったのだろうか?まぁそんなことはどうでも良いの。とにかくこれ、飲みたかったんだから。胃薬ドーピングにもかかわらずさすがに胃に負担がかかってきて、ヘヴィーなものは受け付けなくなってきています。前菜はリヴェンジとばかりに再びグルヌイユに挑戦。メインは魚に逃げ「これじゃ情けないかも…」とちょっと意気消沈。
この回テンション低くてスミマセン。でも食べてみなくちゃわからない。パクっ。しょっぱくはないけれど、フレンチ料理というものを裏切る不思議なソースの味わいです。若いギャルソンに「これはなんのソース?」と聞くと「フィッシュソース、マダァム」との返事。
魚のソースね。次のメインもまたタイ料理のようなフレーヴァーが。再びギャルソンに「今度のこれはなんのソース?」「フィッシュソース、マダァム」と同じ返事。彼らにとって英語は外国語。そんなに流暢に説明できるはずもなく、ましてや私がフランス語を自在に操れるわけもなく。どんな魚をどういうふうにして作ったソースなのか不明でしたが、私たちの舌が知る限りこれはニョクマムなのだろうという結論に達したのでありました。
落涙したビューイーゼル。の表記で期待が高まる読者が多いかと思いますが、けして雰囲気や味に感動したのではなく…、こう書くとさらなる誤解を招きそうではありますが、真実はオーダーしたワインがあまりに素晴らしかったからなのでした。
78年フェヴレーのシャンベルタン・クロ・ド・ベーズ。
これはもう言葉で言い表すことなどできなかった。ブルゴーニュのグランクリュだけが持ち得る鼻腔深く入り込んでくる独特のノーズにノックアウトでございました。まさに旅をしていないワインの醍醐味でございます。涙ぐむ私を見て、してやったりと満足げなパートナーの顔が次の瞬間ひきつります。あの存在感ありすぎのソムリエがものすごーい早足で私たちのテーブルに近づいてくるではないか。きっと「いかなる理由があろうとも食事中にレディを泣かすものではない!」などと説教くらうかと、英語も仏語も流暢とは言えない彼の瞳は不安げに宙を泳ぎます。助けを求められても今感動&号泣に忙しくて…。
私が泣いている理由を知ったソムリエの驚いたような、嬉しそうな中途半端な顔は今でもはっきり脳裏に焼きついています。それから妙に愛想も良くなったし、記念にボトルを持っていく?などとオファーまでしてくれたりして。今度からここではウソ泣きするのがテかも(笑)
前述したように、胃と身体が疲れてきていて、たいへん失礼ながらいただいたディッシュなどに対してやや集中力を欠いたかも。はっきり覚えているのはワインに感動して泣いたこと。今回はあまりワインとのマリアージュもできていませんでした。
わずかな日数ではありますが、フランスでの経験から学んだことがひとつ。食欲にやや自信がない場合、ついメインディッシュを単純に魚貝類に逃げていましたが、これはたいてい失敗に終わることに…。逃げずに新たな食指が動き出すような一品を肉系にも求めてみるほうがよかったりします。
泣くのは実はまだ早かった…ということはこの後のオハナシ。私があれほど拒否したにもかかわらず、無謀なスケジュールをたてたパートナー自身も激しく後悔する道のりが待っていたのでありました。余韻にひたる間もなく迎えに来たTAXIに乗り、ハイウェイを一路シャンパーニュ地方へ。食後ゆっくりする時間もなく、ストラスブールからランスへの約350kmを一直線ですヨ。思い切りかっとばしたって、4時間はかかる距離。しかも。折しもハイウエィは吹雪となったのでありました…。
【飲んだワイン】
勘定書を紛失→個別の値段不明。
Moet et Chandon 96 年(グラス):
Weisberg Riesling 96年:
Chambertin Clos De Beze (Faiveley) 78年:
7)ボワイエ BOYER ”LES CRAERES” ランス
入店した瞬間、一定の間隔をおいてさりげなく立つスタッフの多さにまず驚かされます。日本人は相手の目をじっと見つめるのは礼を失する、というふうに教えられてきているので難しくはあるでしょうが、やはりここでも「郷」のオハナシに。テーブルに着くまでおよそ7人はいたかなー。全員今夜の大切なゲストを微笑をたたえながら見つめているのです。無視するのはそれこそ失礼というもの。ひとりひとりとアイコンタクトをとりましょう。覚えていますか?笑うことが難しければ口角をキュッと上げるだけでも良いということ。はるばるやって来たんだから最高のもてなしを受けてエクセレント・ディナーを堪能しませう。
ハードスケジュールでいい加減げっそりしていた私ですが、メニューを見た途端目が「テン」になりそうなほど驚嬉!「JAMBON DE SAN DANIELE」の一行が前菜セクションに。ジャ、ジャンボン…。こ、これ生ハムのことだよね?しかも熟成期間が長く、塩気が抜けてまろやかな味になっている私の大好きなサン・ダニエーレ。熟成期間が倍ほども違うのでダニエーレのほうが塩気が抜けてまろやかな味になっているのです。もうもう嬉しくってこれ食べたい!がぜん元気になったワタクシ、メインの帆立の前にポテトサラダまで注文しちゃったわ。なんか生ハムにポテトサラダって聞くと、カリフォルニアのデリカテッセンみたい。なーんて思うのはまだまだ早計です。
とにかく、ジャ、ジャンボンなんです。でもそんなに量は食べられないし…。こんな時は臆してはなりません。たとえオーダーを取りに来たギャルソンが大柄で威厳がありそうでも。ここはボワイエ、ギャルソンが貧相だったらそれこそヘンではないか。
「ワタクシ、小食なのだけれどいろいろいただきたいの。」まずはにっこり笑って前置きを。「このハムを私に1/3、殿方に2/3の分量でわけてくださる?そうすればポテトサラダも楽しむことができるわ」女性の涙もさることながら、笑顔の効果は抜群です。「ウィ、マダァム」と恭しくかつにこやかに受けてくれました。
でもって、来たジャンボンがタダモノではないのよ。WOW!これで1/3?!まともに食していたらこれだけでワイン1本イケちゃうのでは…?な量なわけです。しかも美しき薔薇のごとく盛り付けられているではないか。メロンやいちじくの上にペローンって乗っていたり、ウネウネ波形に盛られたりしていないのよ。こんなふうに出てきた生ハムは初めてです。向かいのディッシュに視線を移すと、ちゃーんと2/3の分量がやはり薔薇の花びらになっていてなんだか自然と笑みがこぼれてきました。
フランスの三ツ星でこんなことを言うのはナンですが、イタリアで食べたものより美味なるぞ。塩加減、柔らかさ、しっとり感、どれをとっても文句ナシの逸品でした。生ハムで驚いている場合じゃなかったのは、文面からもおわかりいただけましょう。73ユーロ(9,800円)のポテトサラダに何を期待されますか?時は冬。そう、トリュフのシーズン真っ最中です。これまで食してきたディッシュの中でこれがとびっきりの一等賞!トリュフに焚き染められたおじゃががホクホクと…。人目がなければスーハー深呼吸したいくらいの高貴な香り。他の緑野菜や、絶妙のバランスで顔をのぞかせる細かくつぶしたトリュフのフレークが舌も心も溶かしてくれます。再び雪の降る中4時間強のドライヴさえ厭わずと思ったものです。そうただこの一皿のためだけに。ランブロワジーのように丸ごとゴロンとしたトリュフを食するよりも、この焚きしめた香りを楽しむ姿勢に私は一票入れたい。
もう一度訪れたいと席を立つ前から思わせてくれたディッシュにめぐり合えただけでも、険しい道のりを来た甲斐があったというものでございます。ボランジェの85年だって目からウロコの状態なわけです。今まで飲んできたシャンパーニュはなんだったのだろう。泡の立ち方、やさしくクリーミィなパレット。ここでも旅をしていないパーフェクトなボトルに驚きを隠せず。さらに嬉しい発見はピュリニー・モンラッシェ・シャンカネ by エティエンヌ・ソゼ。デカンタージュののち、冷やし方があっぱれ脱帽なのでした。氷はいっさい入っていない冷水にデカンタをひたし、時おりクルクル回しています。銀の器に入れた冷たいお水はいつまでも冷たいまま…。冷たくなりすぎず、最初から最後まで同じ温度に保たれていたことに心から感服。我が家でも練習がてら時折実行しています。
【飲んだワイン】
Bollinger R.D. 85年: 282ユーロ=¥38,000
Pulliny Montrachet. Champ Canet 98年Etienne Sauzet: 130ユーロ=¥18,000
リストにカリフォルニアワインはなし。
1ユーロ=約¥135 2003年1月時点
8)ラムロワーズ LAMELOSIE ブルゴーニュ・シャニー
ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!ボーン!……これだけ書いてもまだ足りないくらいけたたましい音が店中に鳴り響くグランドファザー時計(大きな床置き式の時計)が真夜中を指し、あ!もうこんな時間!と我にかえった瞬間。あんなにクタクタ、もう当分フレンチはいただきたくないワ、などと言っていた私のお皿がグランマニエのフランベしたクレープのはてまですっかりキレイになっていたことに気づきます。ふーん、美味しいってこういうことだったんだ…。それにしてもすべての客の会話が一斉に中断するほどの音で、最初は心臓がドキッとするほどすさまじく、何故こんなものが置いてあるのだろう…?と不思議ではありました。あの時計の存在は今だに謎であります。
ペットの犬に驚かされたのはグラン・ヴェフールでのこと。そしてここでは、やっと座れるようになったばかりのベビーを連れた若夫婦がいたことです。ちゃんと子供用のハイチェアーまで用意されていて、「へぇー」と思ったものでした。でもね、奇声を発するわけでもなく、おとなしくニコニコ食べているんです、これが。躾さえ良ければ、赤ちゃんだろうと犬だろうとOKという事実に、フランス人の食文化の真髄を見た気がしました。美味しいディナーは家族みんなで共有するものなのであります。
『鳩のロティ トリュフソース』。最後の晩餐はこのディッシュのおはなしでございます。鳩のジュ(肉汁)とトリュフがここまで渾然一体となり、見事なソースに昇華した例を私は他に知りません。シンプルだけれど鳩のうまみが引き出され、濃いこげ茶色なのに透明感がある。立ち昇る香りに酔いしれ、ジビエの真髄を見た思いがしたものです。
「胸肉とモモ&レバーを、別々に時間差をつけてサーヴする」ここまではよくあるサーヴィス。嬉しかったのはころあいを見計らって温かいソースをたっぷりとお皿に追加してくれたこと。トリュフソースのあまりの美味しさに、からめるソースの量がついつい多くなり…。ソースが足りなくなってしまってお肉だけが残っている状態のところに、絶妙のタイミングで小鍋から直接熱いソースをおしげもなく円を描きながらディッシュに注ぐパフォーマンス。こうすることにより、冷めかけていた鳩が息を吹き返すのであります。比較的あっさりした胸肉の後に運ばれた野性味あふれる骨付きモモ肉。そしてソースの二段仕込み。これ以上の贅沢があるでしょうか。
食する側の気持ちをくみとり、当たり前のようにサラリとやってのける、しかも洗練された都会的な味付けで最後まで楽しませてくれる一貫性が、この片田舎にありながら三ツ星をキープする所以でありましょう。トリュフとジビエを楽しむためだけに、この時期に酷寒のブルゴーニュにわざわざ行く価値のある、まさに三ツ星の一皿にめぐりあった思いでございました。
PS. 翌朝のブレックファスト。テーブルサイドでスライサーをグルグル回して切り分ける生ハムは抗し難し。
【飲んだワイン】
Meursault Perrieres 98年Comte Lafon: 170ユーロ=¥23,000
Musigny 94年Georges Roumier: 295ユーロ=¥39,800
1ユーロ=約¥135 2003年1月時点
私が得た教訓
フランスに行って、胃が疲れてきたと感じても「魚系に逃げないこと」。
各レストランで舌平目やカマスなどを選んだ私は、ことごとく裏切られる結果に見舞われました。
一方、果敢に肉系に挑んだお連れ様たちはいつも美味しそうにしているではないか。「この10日間に鳩を4回食したけど、ここのディッシュがベストだ」とコメントしたパートナーに「カトレ・ピジョン!!ウーララー!」と大きな瞳をクリクリまわして驚く表現をしてみせたラムロワーズの料理長は、親指をたてていました。
新鮮な素材を生かす技に培われた「日本料理」になじんだ日本人=私の「魚に求めるものや及第点」とフランス人の求めるそれでは、基準が違うのかなーと思いました。やっぱり彼らは熟成を楽しむ肉料理のほうが上手なのだと感じ入った次第です。きっとブルターニュや南仏に行ったら、また違う味わいなのだろうと思います。
というわけで。
またトリュフの季節に行ってまいります、星つきレストラン行脚の旅。今度はパリとコートダジュール。
今回は私が思ったこと&感じたことを正直に書き綴ったものです。ご愛読ありがとうございました。
とかいって、また性懲りもなく続くじゃないかー。
PS. 今回の8店合計24星行脚で食したディッシュ、「ベスト1は?」と迫られた私のこたえ。
ボワイエでいただいた【トリュフで焚きしめられたポテトサラダ】でございます。
※リポート内容は取材当時のものとなります