Vol.9-3 渡辺ケイと巡るミレニアム紀行 リポート【DAY 3 前編】

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1)シャペレー バレルテイスティング

29号線と平行して走るシルヴァラード・トレイルをラザフォードのあたりで右に折れ、日光のいろは坂もかくやとおぼしき、くねくね道を山にむかってひた走る。ぜーったい観光客なんて来そうもない丘の上にたどり着くと、そこは醸造関係者のあこがれの畑、プリチャードヒルが広がります。ここではブライアントファミリーやシャペレーが、ヒルサイドの特徴を存分に活かした最高の果実で極上のワインを造っています。

フィリップ・タイタス

プライヴェート・ブランド=タイタスがきっかけで知り合ったフィリップ・タイタスは、私の憧れの先生&大好きなワインメーカーです。実は初めて飲んだ時、あまりの美味しさに感激!電話番号を調べおしかけて行ったのでした。今回是非メンバーに紹介しておきたい醸造家のひとりでした。(余談ですが、ツアー日程と前後してサンフランシスコで行われていたジンファンデル・オンリーの試飲会「ZAP」において、プロのトレード部門で、彼の造る銘柄がトップ3に選ばれました。私も自分のことのように嬉しい!)

広々としたバレルルームの中で、マロラクティック発酵が終わったばかりのクローンの異なるシャルドネーをまず2種。リザーヴに匹敵するシグネチャーに使う「ウェンテ」は、長く樽に入っていても、あまりオークの香りが強くならないのが特徴です。トロピカルフルーツの香りが前面に出ていて「今飲んでも、OKじゃない!」もうひとつのほうは、香りも口に含んだ感じもまるっきり違います。シトラスのフレーヴァーと酸味がしっかりしていて引き締まった感じ。同じ畑で育ち同じ酵母を接種して、等しく愛情をかけてあげていてもクローンが違うとこんなに味に差が出てくるのか…。「VIVAのプロ集団」はびっくりして言葉もありません。フィリップが言葉をつなげます。「同じリンゴでも『フジ』と『ゴールデンデリシャス』では、味も風味も全然違うでしょう。それと同じことなんだ。だからどのクローンをどこに植えるかはものすごーく大事なことで、ほとんど命かけてるよ」

その後、シャペレーのトップラインPHEV(Prichard Hill Estate Vineyard=プリチャード・ヒル・エステート・ヴィンヤードの略)のブレンド用赤ワインを試飲。リリースと同時に店頭から消えたシャペレーの大ヒット作です。一番いいとこを試飲させてくれてありがとう。でもほとんどの人がシロウトなの…ごめんね、フィリップ。

以外にまろやかなのは、ラッキング(澱引き)をした直後だからでしょう。樽熟中に澱を除き今まで入っていた樽から次の樽に移した時、ワインが空気に触れるのでまろやかになるのです。飲んで経験してみないとわからない微妙なパレット。

これまでもそうでしたが、ワインメーカーから直接聞く話は新しい事実がどんどん出てくるという感じで実に新鮮です。(事実は新しくないんだけど自分達がそれまで知らなかったから、という意味で)たとえば「日本で学んだ教科書にはアルコールは15°以上にはならないと書いてありますが」という質問がとびました。酵母が糖分をくいつくし、それ以上は上がっていかない…と書いてある。でも実際には15°以上のワインは結構存在するのであります。(ターリーのジンファンデルの中には、17.6%なんていうのもある)そのメカニズムを教えてくれたフィリップ。一同感心して深く頷き、さらにプロに近づいた気分になりました。

2)ジョセフ・フェルプス

お客さんでにぎわうテイスティングやワインショップがある「ワイナリー」とは反対方向の、関係者専用オフィスに案内されて「あれ?」という表情のメンバー。しかし奥には、それはステキな広ーいテイスティング・ルームがあったのでした。ひとりひとり専用のバケットが用意されていて、プロの試飲ヴァージョンにセッティングされています。現在リリースされているワインを順番にテイスティング。ル・ミストラルはローヌをお手本にして造ったワイン。シャトー・ヌフ・ド・パフは一般に13種類のブドウ品種をブレンドするわけですが、こちらはグレナッシュ、シラー、カリニィヨン、プティ・シラーなど7種類。ジンファンデルが入っているのはカリフォルニアならではというところでしょうか。ここでの持ち時間は1時間。椅子に座ってゆっくりおもてなしを受けながら、ワイナリーの歴史を振り返りつつホッと一息です。

74年のインシグニアが、カリフォルニアで初めてのメリテージュだってご存知でしたか?ボルドーブレンドのメリテージュというと、オーパス・ワンが「先駆者」と思われがちですが、あれは79年ですものね。そしてトリを飾るのは、5月リリース予定の新ヴィンテージ、インシグニア98年。いやぁ、すでにしなやかなタンニン、口中に広がるなめらかさ。97年にまさるとも劣らない出来でございます。5月まで辛抱強く待ちましょう!

3)ラザフォード・グリルにて、あっと驚きランチ

そろそろお腹もすいてきました…ヴィントナーズが集まることで有名なラザフォード・グリルで、看板料理のチキンを食べよう!予約を受け付けないこのレストランを選ぶのは、一見無謀なように見えるけど、メンバーには内緒にしていたサプライズがあるので場所を変更するわけにはいきません。

ふたつのテーブルに別れたくなかったので、せまーいブースに全員無理矢理おしこんで、事前に察知されてはいけないとアヤシイ演技を続ける私。「ワインは一休みして、アイスティやレモネードにしましょうよ」なんとなくみなさんも同意してくれてオーダーを待ちます。そこにのっしと現われたる御仁は、グレイス・ファミリーのボトルを抱えたディック・グレイス!最初なにが起きたのか状況が把握できないメンバーたち。「ワインの差し入れに来たよ」にっこり笑うディックに全員アゼン…。ヒサヨさんは驚きと感激のあまり泣き出してしまいました。

いやー、女性の涙がこんなに効果を発揮するのを目の当たりにしたのは私も初めて。結構な量が各人のグラスにいきわたり、チキンと一緒においしく頂いた後のできごとです。

ディック「名前はなんて言うの?」
ヒサヨ「マイネーム イズ ヒサヨ」
デ「あぁ、ジョージね」
↑ディックは自分が発音できない名前の女性に勝手に男の名前をつける悪癖があります。ちなみにVIVAのスタッフ=ユカリはビル。
ヒ「……」←まだ自分がジョージと命名されたことに気づいていない。
日付、サイン、ヒサヨさんの名前、そして丁寧に時間をかけメッセージまで書いたそのボトルを彼女に手渡しました。
デ「This is for you.」
言葉のかわりに、さらにあふれ出る涙…。横にいたサトルくんがポツリとつぶやきます。
「僕も泣けばよかった…この技、次から使わせてもらいます!」
今日のランチ、グレイス・ファミリーのグラスワインつきで$23なり。オーマイゴッド!

Day3後編へつづく

※リポート内容は取材当時のものとなります

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